アイスクリームと獅子

好きなものの話、身勝手な文芸

みんなトリプルファイヤーの新盤『EXTRA』を聴いてくれ

トリプルファイヤーは最も元気をくれるバンドだ。
そんなバンドが2024年夏、7年ぶりの新盤を出してくれた。
各種音楽配信サービスで配信されているぜ!

natalie.mu

見出しかわいいかよ。

とんでもないもんが世に放たれた!という興奮と、みんなにも絶対絶対きいてほしい!!という衝動。それらが今こうして私にキーボードを叩かせている。


御託はもういい。何はともあれ聴いてほしいんだ。

そんなこと言ったってみんなどうせ聴いてくれないんだろうから、「そんなに言うんじゃいっちょきいてみるか」と思ってもらえるように頑張ってもう少し書いてみたいと思う。


歌詞はフロントマンの吉田が、曲はギターの鳥居さんが作っている。

吉田はタモリ倶楽部とか共感百景などのメディアにもたまに出ている。大喜利大会であるダイナマイト関西で芸人と互角の戦いを繰り広げたり、いつぞやの森道市場で呂布カルマ相手にフリースタイルで見応えのある戦いを繰り広げたりして一部で有名(だと思う)。

ニューヨークとかさらば青春の光とかニッポンの社長などの芸人とも交流があるんだなあ。

私はこのフロントマンのことを呼び捨てにしているのだが、ある種の敬意の表れだと思ってもらえると嬉しい…。

ラジオでそのことに言及されていて、MCが「みんなの中に吉田がいるから近すぎる存在になっているのではないか」みたいなこと言っていてなるほどな〜と思った。

たしかに、ライブやトリプルファイヤーの曲を歌っている吉田は呼び捨てがしっくりくるけど、共感百景に出ているときは吉田さんと呼べる気もする。

鳥居さんが作るタイトでソリッドでエッジの効いた曲(どこかで聞いたことの受け売り。私に音楽を言語化する力はない。ただ、彼の曲がものすごくかっこいいことだけはわかる!)に、吉田がなんとも言えない節で言葉を乗せていく。
まあなんというか、変なバンドだ。
ただこの奇妙な組み合わせが、唯一無二のかっこよさなもんでものすごく良い。

さて、今回のアルバム『EXTRA』から数曲引いてみるぜ…。

09.相席屋に行きたい

心を燃やし続けるにはあまりにも長く何事かを為すにはあまりにも短い せめてわずかな才能使い果たして死にたい ああ 相席屋に行きたい

スカート澤部が激推しでおなじみの「相席屋に行きたい」。イントロめちゃくちゃ長いんだけど、かっこよすぎて全然聞き飽きない。

何が始まるんだろ〜?てワクワクしてたら「相席屋に行きたい」である笑。しかしその欲求はとてつもなく切実なものであるということが聞いているとじわじわとわかってくるんや。
『花束みたいな恋をした』で麦がパズドラしかできなくなるあれにも似た切実な問題。

初めてライブで披露されたときその場にいたんだけど、何を目撃しているんだろうと思ったし、澤部さんが興奮しててやっぱすごい瞬間に立ち会ったんだって思った。

歌詞は吉田が上手く書けたと言っていた「トラックに轢かれた」レベルの再来やと私は思う。

中年の危機的な寂しさを感じる。めちゃくちゃキャッチーだな。やっぱ。一番伝わりやすい曲なのかもしれない。

06.ここではないどこか

一億人が活躍できるそんな時代になってきている けどここではない 君を求めているところは

現代社会の闇をサンプリングする才能がありすぎる。

繊細な心持っている 芸術などに適してる

似非適職診断サイトの、なんの仕事にも適していない時に出るでおなじみの「芸術家タイプ」っていうミームを歌詞にした人がいますか。
なんなんですかあの腹立たしい診断結果は。

こういうワードを持ってくることで、この曲が歌っている「君を求めている場所はきっとどこかにある(だがそれはここではない)」という主張(自分が花を咲かせられる場所に身を置きなさい、的な自己啓発の文脈に接続しているとも言えるだろう)が、それっぽいことを言っているだけの危ういものへと一気に傾く。
その揺らぐ感じが最高に面白くて気持ちいい。

プラスチック米(まい)さんという方がコーラスに入っていて、単調な歌い方に広がりが出ていて良い。
曲のちょっと明るい感じをぶち壊すような暗い雰囲気の歌詞、にさらに明るさをプラスして絶妙なバランスにしている、って感じだ。

07.シルバースタッフ

恵方巻き売り捌いてシルバースタッフ昇給したらこんなぬるい人たちと話すのやめようと思ってたのになあ

なあ、が切ない。
彼に演技の仕事が来るのもうなづける*1
シルバースタッフになると時給が10円上がるらしいです。

バイトは生活の糧を得るためだけにやっていて、ほかに目的や目標がある人が、くだらないと思っているバイトでやりがいを感じてしまうっていう曲。人間の悲哀の切り取り方が天才すぎる。

その職場の人のこと、レベル低いと感じて見下してるような描写もあるんだけど、多分シルバースタッフに昇格してしまった彼は職場の人たちのこともちょっとすきになってんじゃないかなあと思える。

初めて聞いた時「なんで恵方巻きチョイスなんだよ」って笑ったんだけど、特定の時期しか売られてないものだから腰掛けのバイト感が強く出るのか!って気づいて気持ちよかった。
あとノルマもありそう。

10.ギフテッド

そんなつもりなかったのに自然と価値があった ただ好きでやっていたこと誰かが値段をつけてく

イントロかっこよすぎる。好きすぎる。
かっこよすぎて、「もしや彼ら自身のことを歌ってるのか?めちゃくちゃかっけえじゃん」って錯覚しそうになるんだよな。でもそれは錯覚なんだろうな。
そういう人たちへの揶揄、とも言い切れないんだけどな。

成功してる人って、インタビューとかで「別に努力したりっていうのはないですよ」的なこと言ったり、「自分が望んでここにきたわけじゃなくて、そうなった」みたいなことを言ったりするじゃないですか。

そういう人たちのことが歌われている。
あ、そっか。この曲は一人称じゃなくて、そういう人たちが言いそうなことの羅列のような形で歌われてるのか。この曲の主体は、そういうギフトを「待ってる」側の人間。それが神に愛された人たちとの奇妙な距離感として現れているのかも。憧れ含みというか。


彼の言葉は真実とフィクションと揶揄と肯定の間をフラフラして定まらなくて、そのゆらゆらしてる感じと踊れる曲が合わさって本当に気持ちいいんですよ。

私が踊るには彼の言葉も鳥居さんの曲もどちらも必要で、どちらかが欠けていたら私のダンスは生まれなかった。

そうして踊っているうちに、定まらなくていいのかなって、そのままでもいいのかもしれないって今をひとまず肯定できるような気がしてくる。


元気をくれる曲って、普通は聴いたら走り出したくなるような、そういう曲のことを言うのかもしれない。でも、このバンドがくれるのはそういう元気じゃなくて、まだ来ない未来に向かって、いま歩き出すための元気だ。


おわりでーす

全然書き足りないのでまだ続を書くかもしれない。

なんせギフテッドに並んで私が最も好きな2曲について書けていない。好き過ぎて逆にどう書いたらいいのかわからなくてさ。

曲名だけ書いとくんでその曲だけでも聴いてください。スピリチュアルボーイとサクセスって曲です。サクセスは途中ダイアン津田がいます(大嘘)
ototoy.jp


turntokyo.com
導入にありがとう。吉田の歌詞にフィーチャーしてくれている言葉を読むと嬉しくなる。そーなんだよ!って思う。
第一弾の鳥居さんのインタビューも良い。鳥居さんの文章、めちゃくちゃ魅力的だよね。

*1:たとえば、たりないふたりがドラマ化された『だが、情熱はある』の最終話に出ていた。トリプルファイヤー初のテレビ出演のMCは若林さんだったし、なんかの特番でオードリーMCの番組出てたし、吉田の顔は星野源にどことなく似ているし、ベースの山本さんはリトルトゥースである。そして吉田は最近青銅さんとPodcastYouTubeやってるらしい。なにかとオードリーと縁があるトリプルファイヤー。以上どうでもいい情報